親じの一番いい鉄砲を持ち出して、打ちに出かけるんだ。しかもそう云う我が儘を、何んだか人を小馬鹿にしたような、いかにも意地の悪そうに見える横柄な顔をしてやるんじゃないか、僕はもし彼奴《かやつ》が、僕と同年輩ぐらいの男だったら、もう二十度は叩きのめしてやってるんだ。けれどホームズ、僕はこうした出来事のある間、じっと辛抱していた、そして自分が進んで何かことを起こすのは、悧巧《りこう》なことじゃないのだろうかどうかと、始終迷っていたんだ。
 ところが事態は、ますます悪くなって行くんだ。この獣《けだもの》のような男のハドソンは、ますます出しゃばるようになって来て、とうとうしまいには、ある日のこと僕の目の前で僕の父親に傲慢な乱暴なことを云ったんだ。で僕はむっとして、彼奴《かやつ》の肩をひっ掴むと、部屋から外へほうり出してやったんだよ。すると彼奴《かやつ》は、真蒼な顔をして、毒々しい両眼にびっくりしたらしい表情を浮べて、ものも云わずに逃げてってしまったんだ。が、それからあとで、僕の哀れな親じと彼奴《かやつ》との間に、どんな交渉があったか知らないけれど、翌日親じは僕の所へやって来て、彼奴《かやつ》に詫びてくれるかどうかと云うんだ。無論君の想像通り断ったんだよ。そして僕は親じに、どうしてああ云う無頼漢に、親じに対してもまた家庭の内ででも、こんなに勝手なことをさせておくのかときいてみたんだ。
「ああ、お前!」
 と親じは云った。
「話してしまえば、それが一番いいんじゃ。しかしお前は私がどんな立場にいるか知らんのじゃ、だが、今に話してやろう。ヴクトウ。今に、きっと話さなくてはならないような事件がおきて来ると私は思っとるのじゃ。お前はお前の可哀そうな年とった父親が、危害を加えられるなんて云うことは信じられないのじゃろうな、ねえお前?」
 親じは僕の言葉にひどい打撃をこうむったようだった。その日一日部屋の中に閉じこもってしまった。そして僕が窓からのぞいて見ると、親じはいそがしそうに何かを書いていた。
 するとその日の夕方のことだった。僕たちには大きな救いのように見えたことがもち上った。と云うのは、ハドソンが僕たちの家から出て行くと云い出したからだ。ちょうど僕たちはお八つを食べに食堂に集《あつま》った時、あいつは、ほろ酔い機嫌のしゃがれ[#「しゃがれ」に傍点]声で自分のその考えを云い出したのだ
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