ほひ』として薔薇花・水仙花・榲※[#「木+孛」、第3水準1−85−67]《マルメロ》等を単用するのが普通で、時としては「スシノン」と称する百合の花香と菖蒲根・肉桂・サフロン・没薬及び蜂蜜を脂肪と煉つたものを用ひることが流行したと云ふ。又ブリニーの著書によれば是等の塗脂の中最も貴ばれたのは帝王塗脂と云はれ、二十七種の貴重な材料を調合して製せられたと云ふ。是等は何れも随分高価なもので一瓩の価額金二百円以上もしたものである。
当時のローマ市民が薔薇を賞美したことは非常なもので、全く狂的と云つてもよい程であつた。富豪や貴人達は食堂を薔薇の花びらで敷きつめたり、薔薇水の噴水を部屋の中につくつたり、薔薇の花冠を戴き、薔薇の花綱を首にかけ、薔薇香水を頭の上から浴びせたりしたと云ふ。ヘリオガバルスと云ふ男は一つ話に語られる程の薔薇気狂ひで、薔薇で『にほひ』をつけた酒をのみ、薔薇水の風呂に入り、凡ての食物に薔薇の『にほひ』をつけ、あまりに薔薇を楽しんだ揚句の果に病気になつたが、病中その薬にも薔薇の『にほひ』をつけなければ承知しなかつたと云ふことである。
底本:「日本の名随筆48 香」作品社
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