とんど同時に船中で叫び声が起り、続いて別の叫び声がした。船室昇降梯子をどかどかと歩く足音が聞えた。それで、あの二人の酔漢もとうとう喧嘩《けんか》を中止して自分たちが災難に遭っていることに気がついたのだということがわかった。
 私はそのみすぼらしい小舟の底にぺったりと寝そべって、自分の魂を神にひたすらに委ねていた。海峡の終るところで、私たちはきっと荒波の砕けている沙洲にぶっつかるに違いなく、そこで私のすべての心労も迅速に終ってしまうだろうと思った。そして私は死ぬことは多分堪えられたろうが、近づいて来る運命を傍観しているのは堪えられなかった。
 絶えず大浪にあちこちと押しやられ、時々は飛び散る飛沫《しぶき》に濡れ、今度水の中に突き込まれたら死ぬだろうと絶間なく思いながら、そうして私は何時間も横っていたに違いない。次第に疲れが増して来た。こういう恐怖の中でさえ、私の心は痺《しび》れたようになり、折々は無感覚になった。逐にはとうとう眠ってしまい、波に揺られる革舟の中で、私は横になって故郷と懐しい「|ベンボー提督《アドミラル・ベンボー》屋」とを夢にみた。

     第二十四章 革舟《コラクル》
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