、煙草の煙が濛々としていたのに、かなりよく見通された。
 客は大部分船乗だった。そしてずいぶん大きな声でしゃべり合っているので、私は、入ってゆくのが怖《こわ》いような気がして、戸口でためらっていた。
 そうしてぐずぐずしている時に、一人の男が脇の室から出て来たが、私は一目でそれがのっぽのジョンに違いないと思った。左の脚がほとんど股のつけ根のところから切れており、左の腋の下に※[#「木+裃のつくり」、第3水準1−85−66]杖《かせづえ》(註三四)を持っていて、それを驚くべく器用に扱い、それをあてて鳥のようにぴょんぴょん跳び※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]っていた。大層|丈《たけ》が高くて巌乗な男で、顔はハムのように大きく、――不器量で蒼白いが、利口そうでにこにこしていた。実際、非常に機嫌がよいらしく、口笛を吹きながらテーブルの間を動き※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]り、贔屓《ひいき》の客人たちには愛想のいい言葉をかけたり、その肩をぽんと叩いたりしていた。
 さて、実を言うと、私は、大地主のトゥリローニーさんの手紙にのっぽのジョンのことを書いてあるのを見た実に最初の時から、その男こそ私が「|ベンボー提督《アドミラル・ベンボー》屋」で永い間見張っていたあの一本脚の水夫ではあるまいかと、心の中で恐れを抱いていたのであった。しかし今目前にいる男を一目見ただけで十分だった。私は船長や、黒犬《ブラック・ドッグ》や、盲人のピューを見ていたので、海賊がどんなようなものかということは知っているつもりだった。――海賊とは、私の考えによれば、このさっぱりした快活な気質の亭主とはまるで違った人間なのだ。
 私は直ちに勇気を出して、閾《しきい》を跨ぎ、その男が※[#「木+裃のつくり」、第3水準1−85−66]杖に凭《もた》れながら一人の客と話している処へ、まっすぐに歩いて行った。
「シルヴァーさんですね?」と私は尋ねて、手紙を差し出した。
「そうですよ。」と彼が言った。「いかにも、それがわっしの名でさあ。してあんたはだれですかね?」それから大地主さんの手紙を見ると、彼は何だかぎょっとしたように私には思われた。
「おお!」と彼は、手を差し出しながら、大層大きな声をして言った。「なるほど。君はわっしたちの今度の船室給仕《ケビンボーイ》だね。やあ、初めて。」
 そして彼は私の手
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