った。
 村へ着いたのはもう灯《ひ》ともし頃《ごろ》だった。そして、家々の戸口や窓から洩れる黄ろい光を見た時の嬉しさを、私は決して忘れることがあるまい。だが、それが、後でわかったように、私たちがそこで得られた最上の助けだったのだ。という訳は、――人々が自分を恥じたろうと思われるであろうが、――だれ一人として私たちと一緒に「|ベンボー提督《アドミラル・ベンボー》屋」へ引返そうという者がなかったからである。私たちの難儀を話せば話すほど、ますます――男も女も子供も――皆自分たちの家へすっこむのだった。フリント船長の名は、私には初めてであったけれども、村ではよく知っている人もあって、非常に恐れさせる力があった。それに、「ベンボー提督屋」の先の方の側で野良《のら》仕事をしていた人たちの中には、見慣れない男が何人も街道にいるのを見て、それを密輸入者だと思って逃げ出したことがあるのを、思い出す者もあったし、また、少くとも一人は、キット入江と言っているところに小さな帆船《ラッガー》を一艘見たことがあった。実際、フリント船長の仲間であった者ならだれであろうと、村の人を死ぬほど怖がらせるに十分であった。で、結局、別の方角にあるリヴジー先生のところへなら進んで馬を走らせようという者が幾人もいたけれども、私たちを助けて宿屋を護ろうとする者は一人もいなかったのである。
 臆病はうつると世間では言う。しかしまた、一方、議論は非常に勇気をつけるものである。で、銘々が言うだけのことを言ってしまうと、母は皆に言った。父親のないこの子のものであるお金は損したくない、と母は言い切った。「あなた方《がた》がどなたも来て下さらないなら、ジムと私《あたし》が行きます。」と母が言った。「戻って行きますよ、来た道をね。いやどうも有難うござんした。図体《ずうたい》ばかり大きくて、胆っ玉の小さい方《かた》ばかりですね。死んだっていいから、私たちはあの箱を開《あ》けてみます。すみませんがその嚢を貸して下さいな、クロスリーさんのおかみさん。私たちの貰う権利のあるだけのお金を入れて来るんですから。」
 もちろん、私は母と一緒に行くと言った。また、もちろん、人々はみんな私たちのことを無鉄砲だと呶鳴《どな》った。が、それでもなお、一緒に行ってやろうという者は一人もなかった。ただ、私たちが襲われないようにと、弾丸を籠めた一挺のピ
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