じまえ》になったって訳さ。己はイングランドの時には九百ポンド貯《た》め、フリントのところでは二千ポンド貯めた。これぁ平水夫にしちゃあ悪かあねえだろ。――みんなちゃんと銀行に預けてあるよ。肝腎なのは稼ぐことじゃねえ、貯めることだ。こいつあ違えねえとこだぜ。イングランドの手下の奴らあ今みんなどこにいる? わからねえ。フリントの手下は? それぁ、大抵はこの船にいて、プディングを貰って喜んでやがるが、――その前《めえ》にゃ乞食をしていた奴もある。眼をなくしたピューの奴などは、恥しくもなく、国会の議員さまみてえに一年に千二百ポンドも使ったものだ。奴は今どこにいる? そうさ、もう死んじゃって、あの世にいらあ。だがその前二年ってものは、馬鹿めが! あいつは饑《かつ》えていやがったんだよ。奴は乞食をする、盗みはやる、人殺しをやる、おまけに飢死《うえじに》と来るんだからなあ!」
「じゃあ、金《かね》だって大して役にゃ立たない訳ですね、つまり。」とその若い水夫は言った。
「馬鹿にゃあ大《てえ》して役に立たねえとも、違えねえさ、――金だって何だって。」とシルヴァーが大声で言った。「だが、なあ、おい。お前《めえ》は若《わけ》え。若えが、ペンキみてえにはしっこい。それはお前をちょっと見た時から己にゃあちゃんとわかってるんだ。だから己はお前を一人前の男と同じに話をするんだぜ。」
この憎むべき老いぼれの悪漢が、私に使ったのとそっくり同じ言葉のおべっかを、他の人間に言っているのを聞いた時の私の気持がどんなだったかは、諸君も想像出来るであろう。私は、もし出来さえしたら、樽越しに彼を突き殺してやったろうと思う。その間に、彼は、窃《ぬす》み聞きされているとは少しも思わずに、しゃべり続けた。
「分限紳士《ぶんげんしんし》ってなあこういうものなんだ。奴らは荒仕事をやるし、ぶらんこ往生覚悟の仕事をやるが、闘鶏《けあいどり》みてえに贅沢に飲み食いする。そして一航海やって来ればだ、そうさなあ、ポケットにゃ何百ファージングの代りに何百ポンドと入《へえ》ってる。(註五〇)ところで、大概《てえげえ》の奴らはそれをラムや大尽遊びに使っちまって、またぞろシャツ一枚で海へ出かけるという訳さ。だが己のやり口はそうじゃねえ。己はそれをそっくりためておく。こっちに少し、あっちに少しという風にして、どこにもあんまりたんとはおかねえ
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