そこで暗がりの中に坐っていると、波の音やら船の動揺やらで、つい寝込んだか、それとも眠りかけようとしていたか、その時、だれか重い男がすぐ近くにどしんと腰を下した。その男が肩を樽にもたせかけると樽がぐらぐらと揺れたので、私がもう少しのことで跳び上ろうとした時、その男がしゃべり始めた。それはシルヴァーの声だった。そして、私は一ダースの言葉も聞かないうちに、どんなことがあっても出てゆくどころではなく、極度の恐怖と好奇心とで、ぶるぶる震えながらも耳を傾けて、そこに蹲った。というのは、その一ダースの言葉から、私は船中にいるすべての正直な人たちの生命が自分一人に懸っていることを知ったからである。
第十一章 林檎樽の中で聞いた話
「いいや、己じゃねえ。」とシルヴァーが言った。「フリントが船長《せんちょ》だったんだ。己は、こんな木の脚をついてるんで、按針手《クォータマスター》だったよ。己が脚をなくした時の片舷《かたがわ》からの一斉射撃で、ピューの奴めも眼玉をなくしたのさ。己の脚を切ってくれたのは上手な外科医だった、――大学なんかもみんなすまして、――ラテン語もどっさり知ってたし、その他《ほか》何でも知っていてね。だが、その男も犬みてえに縊《くび》り殺されて、他の奴らと同じに天日《てんぴ》に曝されたぜ、コーソー要塞(註四七)でよ。あれはロバーツ(註四八)の手下だった、あれはな。あれも船の名を変えたんで起ったことさ、――大幸運《ロイアル・フォーチュン》号とか何とかね。だから、船に名をつけたら、そのままにしておくことだな。イングランドがインドの太守を虜《とリこ》にしてから、己たちみんなを無事にマラバーから乗せて戻ったカサンドラ号だってそうだったし、赤い血を見て暴れ狂って手当り次第の船をやっつけ、金貨で今にも沈みそうになった、フリントの船の海象《ウオルラス》号だってそうだったよ。」
「ああ!」と別の声が叫んだが、それは船中で一番若い水夫の声で、明かに感歎しきった声だった。「あの人は仲間の華《はな》だったんだね、あのフリントって人は!」
「デーヴィス(註四九)も偉い奴だったそうだ、みんなの話じゃあな。」とシルヴァーが言った。「己は一度もあの人と一緒に船に乗ったことはねえ。初めはイングランドの船に乗り、それからフリントの船に乗った、というのが己の経歴だ。そして今じゃあ、言わば自前《
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