三つあるが、階下《した》には一つもない。窓はいつも閉めてあるが、しかし奇麗になっています。それから、煙突が一本あって、大抵煙が出ていること。だから、誰かがあすこに住んでいるには違いありません。でもそれも大して確かなことじゃあないんです。何しろあの路地のあたりは建物がぎっしり建て込んでいて、どこが家の区切かよくわからないんですから。」
二人はまた暫くは黙ったまま歩いていった。それから「エンフィールド君、」とアッタスン氏が言った。「君のその主義はよい主義だよ。」
「ええ、僕もそう思っています、」とエンフィールドが答えた。
「が、それにしても、」と弁護士は言葉を続けた。「ききたいことが一つある。わたしは子供を踏みつけたその男の名前をききたいのだが。」
「そうですね、」とエンフィールド氏が言った。「それは言っても別に差支えないでしょうね。そいつはハイドという名前でしたよ。」
「ふむ、」とアッタスン氏が言った。「その男は見たところどんなような男かね?」
「そいつの人相を言うのはたやすくないですよ。その様子にはどこか変なところがありましてね。何だか不愉快な、何だかとても憎らしいところが。僕はこれまでにあんなにいやな人間を見たことがありませんが、それでいてそれがなぜかよくわからないのです。あの男はどこか不具に違いない。不具という感じを強く人に与えるのです。もっとも、どこがそうかということは僕にもはっきり言えませんがね。とても異様な顔付きでしたが、それでいて何一つ並はずれなところを挙げることも実際できないのです。いやまったく、僕にはとても説明がつかない。僕にはあの男の人相を言えません。といって覚えていない訳じゃあないのですよ。なぜってこの今でも僕はあの男を思い浮かべることができるんですから。」
アッタスン氏はまた黙って少し歩いていったが、たしかに何か考え込んでいた。とうとう「その男が鍵を使ったというのは確かなんだね?」と彼は尋ねた。
「一体あなたは……」とエンフィールドは我を忘れるくらい驚いて言いかけた。
「うん、わかっているよ、」とアッタスンが言った。「こう言っちゃ変に思われるに違いないがね。実は、わたしがもう一方の人の名前をきかないのは、わたしがとうにそれを知っているからなのだ。ねえ、リチャード、君の話はひしひしとこたえたんだよ。もし今の話にどこか不正確な点があったら、訂正
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