を喜《よろこ》んだ……勿論《もちろん》、谷《たに》へ分入《わけい》るに就《つ》いて躊躇《ちうちよ》を為《し》たり、恐怖《おそれ》を抱《いだ》いたりするやうな念《ねん》は聊《いさゝか》も無《な》かつた。
 と雪枝《ゆきえ》は続《つゞ》いて言《い》つた。
「其《そ》の上《うへ》好奇心《かうきしん》にも駆《か》られたでせう。直《す》ぐにも草鞋《わらぢ》を買《か》はして、と思《おも》つたけれども、彼是《かれこれ》晩方《ばんがた》に成《な》つたから、宿《やど》の主人《あるじ》を強《し》ゐて、途中《とちゆう》まで案内者《あんないしや》を着《つ》けさせることにして、其《そ》の日《ひ》の晩飯《ばんめし》は済《すま》せました。」
 双六谷《すごろくだに》へは、翌早朝《よくさうてう》と言《い》ふ意気組《いきぐみ》、今夜《こんや》も二世《にせ》かけた勝敗《しようはい》は無《な》しに、唯《たゞ》睦《むつ》まじいのであらうと思《おも》ふ。宵寐《よひね》をするにも余《あま》り早《はや》い、一風呂《ひとふろ》浴《あ》びた後《あと》……を、ぶらりと二人連《ふたりづれ》で山路《やまみち》へ出《で》て見《み》たのが、丁《
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