》に、雲《くも》の簇《むら》がるやうな奥《おく》に、祠《ほこら》の狐格子《きつねがうし》を洩《も》れる灯《ひ》が、細雨《こさめ》に浸《にじ》むだのを見《み》ると――猶予《ためら》はず其方《そちら》へ向《む》いて、一度《いちど》斜《はす》に成《な》つて折曲《をれまが》つて列《つらな》り行《ゆ》く。
其時《そのとき》気《き》に懸《かゝ》つたのは、祠《ほこら》の前《まへ》を階《きぎはし》から廻廊《くわいらう》の下《した》へ懸《か》けて、たゞ三《み》ツ五《いつ》ツではない、七《なゝ》八《や》ツ、それ/\十《と》ウにも余《あま》る物《もの》の形《かたち》が、孰《どれ》も土器色《かはらけいろ》の法衣《ころも》に、黒《くろ》い色《いろ》の袈裟《けさ》かけた、恰《あだか》も空摸様《そらもやう》のやうなのが、高《たか》い坊主《ばうず》と低《ひく》い坊主《ばうず》と大《おほき》な坊主《ばうず》と小《ちひ》さな坊主《ばうず》と、胡乱々々《うろ/\》動《うご》いて、むら/\居《ゐ》る……
『やあ、お浦《うら》を嬲《なぶ》る、』
と前《まへ》へ行《ゆ》く案山子《かゝし》どもを、横《よこ》に掠《かす》めて、一息《ひといき》に駆《か》け着《つ》けて、いきなり階《きざはし》に飛附《とびつ》いて、唯《と》見《み》ると、扨《さて》も、寄《よ》つたわ、来《き》たわ。僧形《そうぎやう》に見《み》えた有《あ》りたけの人数《にんず》は、其《それ》も是《これ》も同《おな》じやうな案山子《かゝし》の数々《かず/\》。――割《わ》つて通《とほ》つた人間《にんげん》の袖《そで》の煽《あふ》りに、よた/\と皆《みな》左右《さいう》に散《ち》つた、中《なか》には廻廊《くわいらう》に倒《たふ》れかゝつて、もぞ/\と動《うご》くのもある。
正面《しやうめん》に伸上《のびあが》つて見《み》れば、向《むか》ふから、ひよこ/\来《く》る三個《みつゝ》の案山子《かゝし》も、同《おな》じやうな坊主《ばうず》に見《み》えた。
扉《とびら》を入《はい》ると、無事《ぶじ》であつた。お浦《うら》を其《そ》のまゝの彫像《てうざう》は、灯《ひ》の影《かげ》にちら/\と瞳《ひとみ》も動《うご》いて、人待顔《ひとまちがほ》に立草臥《たちくたび》れて、横《よこ》に寝《ね》たさうにも見《み》えたのである。
下《した》に敷《し》いた白毛布《しろけつ
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