《ゐ》た。が、同《おな》じ舌《した》の尖《さき》に触《ふ》れた、と思《おも》ふと血《ち》を絞《しぼ》つて湧《わ》き出《い》づる火《ひ》のやうな涙《なみだ》とゝもに、ほろり、と采《さい》が手《て》に落《お》ちた。其《そ》の掌《たなごゝろ》を忘《わす》るゝばかり心《こゝろ》を詰《つ》めて握占《にぎりし》めた時《とき》、花《はな》の輪《わ》が渦《うづま》くやうに製作《せいさく》の興《きよう》が湧《わ》いた。――閉《と》づる、又《また》開《ひら》く、扇《あふぎ》の要《かなめ》を思着《おもひつ》いた、骨《ほね》あれば筋《すぢ》あれば、手《て》も動《うご》かう、足《あし》も伸《の》びやう……風《かぜ》ある如《ごと》く言《ものい》はう…と早《は》や我《わ》が作《つく》る木彫《きぼり》の像《ざう》は、活《い》きて動《うご》いて、我《わ》が身《み》ながらも頼母《たのも》しい。さて其《そ》の要《かなめ》は、……手《て》に握《にぎ》つた采《さい》であつた。
天《てん》が命《めい》じて、我《われ》をして為《な》さしむる、我《わ》が作《な》す美女《たをやめ》の立像《りつざう》は、其《そ》の掌《てのひら》に采《さい》を包《つゝ》んで、作《さく》の神秘《しんぴ》を胸《むね》に籠《こ》めやう。言《い》ふまでも無《な》く、其《そ》の面影《おもかげ》、其《そ》の姿《すがた》は、古城《こじやう》の天守《てんしゆ》の囚《とりこ》と成《な》つた、最惜《いとをし》い妻《つま》を其《そ》のまゝ、と豁然《くわつぜん》として悟《さと》ると同時《どうじ》に、腕《うで》には斧《をの》を取《と》る力《ちから》が籠《こも》つて、指《ゆび》と指《ゆび》とは鑿《のみ》を持《も》たうとして自然《ひとり》で動《うご》く――時《とき》なる哉《かな》、作《さく》の頭《こうべ》に飾《かざ》るが如《ごと》く、雲《くも》を破《やぶ》つて、晃々《きら/\》と星《ほし》が映《うつ》つた。
星《ほし》の下《した》を飛《と》んで帰《かへ》つて、温泉《いでゆ》の宿《やど》で、早《は》や準備《じゆんび》を、と足《あし》が浮《う》く、と最《も》う遠《とほ》く離《はな》れた谿河《たにがは》の流《ながれ》が、砥石《といし》を洗《あら》ふ響《ひゞき》を伝《つた》へる。
二十六
然《さ》うすると、心《こゝろ》に刻《きざ》んで、想像《さ
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