ひ》の皺《しは》の汗《あせ》を拭《ふ》いて、親仁《おやぢ》は之《これ》で可《よ》しといふ気組《きぐみ》、再《ふたゝ》び前《まへ》へ廻《まは》つたが、旧《きう》に依《よ》つて貧乏動《びんぼうゆるぎ》もしないので、綱《つな》に両手《りやうて》をかけて足《あし》を揃《そろ》へて反返《そりかへ》るやうにして、うむと総身《さうみ》の力《ちから》を入《い》れた。途端《とたん》に何《ど》うぢやい。
 凄《すさま》じく嘶《いなゝ》いて前足《まへあし》を両方《りやうはう》中空《なかぞら》へ飜《ひるがへ》したから、小《ちひさ》な親仁《おやぢ》は仰向《あふむ》けに引《ひツ》くりかへつた、づどんどう、月夜《つきよ》に砂煙《すなけぶり》が※[#「火+發」、42−10]《ぱツ》と立《た》つ。
 白痴《ばか》にも之《これ》は可笑《をかし》かつたらう、此時《このとき》ばかりぢや、真直《まツすぐ》に首《くび》を据《す》ゑて厚《あつ》い唇《くちびる》をばくりと開《あ》けた、大粒《おほつぶ》な歯《は》を露出《むきだ》して、那《あ》の宙《ちゆう》へ下《さ》げて居《ゐ》る手《て》を風《かぜ》で煽《あふ》るやうに、はらり/\。

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