私《わし》はその前刻《さつき》から何《なん》となく此《この》婦人《をんな》に畏敬《ゐけい》の念《ねん》が生《しやう》じて善《ぜん》か悪《あく》か、何《ど》の道《みち》命令《めいれい》されるやうに心得《こゝろえ》たから、いはるゝままに草履《ざうり》を穿《は》いた。
するとお聞《き》きなさい、婦女《をんな》は足駄《あしだ》を穿《は》きながら手《て》を取《と》つてくれます。
忽《たちま》ち身《み》が軽《かる》くなつたやうに覚《おぼ》えて、訳《わけ》なく後《うしろ》に従《したが》ふて、ひよいと那《あ》の孤家《ひとつや》の背戸《せど》の端《はた》へ出《で》た。
出会頭《であひがしら》に声《こゑ》を懸《か》けたものがある。
(やあ、大分《だいぶ》手間《てま》が取《と》れると思《おも》つたに、御坊様《おばうさま》旧《もと》の体《からだ》で帰《かへ》らつしやつたの、)
(何《なに》をいふんだね、小父様《をぢさま》家《うち》の番《ばん》は何《ど》うおしだ。)
(もう可《い》い時分《じぶん》ぢや、又《また》私《わし》も余《あんま》り遅《おそ》うなつては道《みち》が困《こま》るで、そろ/\青《あを》
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