自分達《じぶんだち》が立《た》つた側《がは》は、却《かへ》つて此方《こなた》の山《やま》の裾《すそ》が水《みづ》に迫《せま》つて、丁度《ちやうど》切穴《きりあな》の形《かたち》になつて、其処《そこ》へ此《こ》の石《いし》を箝《は》めたやうな誂《あつらへ》。川上《かはかみ》も下流《かりう》も見《み》えぬが、向《むか》ふの彼《か》の岩山《いはやま》、九十九折《つゞらをれ》のやうな形《かたち》、流《ながれ》は五|尺《しやく》、三|尺《しやく》、一|間《けん》ばかりづゝ上流《じやうりう》の方《はう》が段々《だん/″\》遠《とほ》く、飛々《とび/″\》に岩《いは》をかゞつたやうに隠見《いんけん》して、いづれも月光《げつくわう》を浴《あ》びた、銀《ぎん》の鎧《よろひ》の姿《すがた》、目《ま》のあたり近《ちか》いのはゆるぎ糸《いと》を捌《さば》くが如《ごと》く真白《まツしろ》に飜《ひるがへ》つて。
(結構《けつこう》な流《ながれ》でございますな。)
(はい、此《こ》の水《みづ》は源《みなもと》が瀧《たき》でございます、此山《このやま》を旅《たび》するお方《かた》は皆《みな》大風《おほかぜ》のやうな音
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