《まを》しますよ。)と顔《かほ》を見《み》て微笑《ほゝゑ》んだ。
(一人《ひとり》で参《まゐ》りませう、)と傍《わき》へ退《の》くと親仁《おやぢ》は吃々《くつ/\》と笑《わら》つて、
(はゝゝゝ、さあ早《はや》くいつてござらつせえ。)
(をぢ様《さん》、今日《けふ》はお前《まへ》、珍《めづ》らしいお客《きやく》がお二人《ふたかた》ござんした、恁《か》ふ云《い》ふ時《とき》はあとから又《また》見《み》えやうも知《し》れません、次郎《じらう》さんばかりでは来《き》た者《もの》が弱《よわ》んなさらう、私《わたし》が帰《かへ》るまで其処《そこ》に休《やす》んで居《ゐ》てをくれでないか。)
(可《い》いともの。)といひかけて親仁《おやぢ》は少年《せうねん》の傍《そば》へにぢり寄《よ》つて、鉄挺《かなてこ》を見《み》たやうな拳《こぶし》で、脊中《せなか》をどんとくらはした、白痴《ばか》の腹《はら》はだぶりとして、べそをかくやうな口《くち》つきで、にやりと笑《わら》ふ。
 私《わし》は悚気《ぞツ》として面《おもて》を背《そむ》けたが婦人《をんな》は何気《なにげ》ない体《てい》であつた。
 親仁《おや
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