いたされませんが、那《あ》の、此《こ》の裏《うら》の崖《がけ》を下《お》りますと、綺麗《きれい》な流《ながれ》がございますから一|層《そう》其《それ》へ行《い》らつしやツてお流《なが》しが宜《よ》うございませう、)
 聞《き》いただけでも飛《とん》でも行《ゆ》きたい。
(えゝ、其《それ》は何《なに》より結構《けつこう》でございますな。)
(さあ、其《それ》では御案内《ごあんない》申《まを》しませう、どれ、丁度《ちやうど》私《わたし》も米《こめ》を磨《と》ぎに参《まゐ》ります。)と件《くだん》の桶《をけ》を小脇《こわき》に抱《かゝ》へて、椽側《えんがは》から、藁草履《わらぞうり》を穿《は》いて出《で》たが、屈《かゞ》んで板椽《いたえん》の下《した》を覗《のぞ》いて、引出《ひきだ》したのは一|足《そく》の古下駄《ふるげた》で、かちりと合《あ》はして埃《ほこり》を払《はた》いて揃《そろ》へて呉《く》れた。
(お穿《は》きなさいまし、草鞋《わらじ》は此処《こゝ》にお置《お》きなすつて、)
 私《わし》は手《て》をあげて一|礼《れい》して、
(恐入《おそれい》ります、これは何《ど》うも、)
(お
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