ところ》を走《はし》るので。ともすると又《また》常盤木《ときはぎ》が落葉《おちば》する、何《なん》の樹《き》とも知《し》れずばら/″\と鳴《な》り、かさかさと音《おと》がしてぱつと檜笠《ひのきがさ》にかゝることもある、或《あるひ》は行過《ゆきす》ぎた背後《うしろ》へこぼれるのもある、其等《それら》は枝《えだ》から枝《えだ》に溜《たま》つて居《ゐ》て何十年《なんじうねん》ぶりではじめて地《つち》の上《うへ》まで落《おち》るのか分《わか》らぬ。」

         第八

「心細《こゝろぼそ》さは申《もを》すまでもなかつたが、卑怯《ひけふ》な様《やう》でも修業《しゆげふ》の積《つ》まぬ身《み》には、恁云《かうい》ふ暗《くら》い処《ところ》の方《はう》が却《かへ》つて観念《くわんねん》に便《たより》が宜《よ》い。何《なに》しろ体《からだ》が凌《しの》ぎよくなつたゝめに足《あし》の弱《よわり》も忘《わす》れたので、道《みち》も大《おほ》きに捗取《はかど》つて、先《ま》づこれで七|分《ぶ》は森《もり》の中《なか》を越《こ》したらうと思《おも》ふ処《ところ》で、五六|尺《しやく》天窓《あたま》の
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