散《さん》に駆《か》け下《お》りたが、里《さと》に着《つ》いた時分《じぶん》は山《やま》は驟雨《ゆふだち》、親仁《おやぢ》が婦人《をんな》に齎《もた》らした鯉《こひ》もこのために活《い》きて孤家《ひとつや》に着《つ》いたらうと思《おも》ふ大雨《おほあめ》であつた。」
高野聖《かうやひじり》は此《こ》のことについて、敢《あへ》て別《べつ》に註《ちう》して教《をしへ》を与《あた》へはしなかつたが、翌朝《よくてう》袂《たもと》を分《わか》つて、雪中《せつちう》山越《やまごし》にかゝるのを、名残《なごり》惜《を》しく見送《みおく》ると、ちら/\と雪《ゆき》の降《ふ》るなかを次第《しだい》に高《たか》く坂道《さかみち》を上《のぼ》る聖《ひじり》の姿《すがた》、恰《あたか》も雲《くも》に駕《が》して行《ゆ》くやうに見《み》えたのである。
底本:「新編 泉 鏡花集 第八巻」岩波書店
2004(平成16)年1月7日第1刷発行
底本の親本:「高野聖」左久良書房
1908(明治41)年2月20日
初出:「新小説 第五年第三巻」春陽堂
1900(明治33)年2月1日
※底本は、物を
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