う此処《こゝ》を退《の》かつしやい、助《たす》けられたが不思議《ふしぎ》な位《くらゐ》、嬢様《ぢやうさま》別《べツ》してのお情《なさけ》ぢやわ、生命冥加《いのちみやうが》な、お若《わか》いの、屹《きツ》と修行《しゆぎやう》をさつしやりませ。)と又《また》一ツ背中《せなか》を叩《たゝ》いた、親仁《おやぢ》は鯉《こひ》を提《さ》げたまゝ見向《みむ》きもしないで、山路《やまぢ》を上《うへ》の方《かた》。
 見送《みおく》ると小《ちい》さくなつて、一|坐《ざ》の大山《おほやま》の背後《うしろ》へかくれたと思《おも》ふと、油旱《あぶらでり》の焼《や》けるやうな空《そら》に、其《そ》の山《やま》の巓《いたゞき》から、すく/\と雲《くも》が出《で》た、瀧《たき》の音《おと》も静《しづ》まるばかり殷々《ゐん/\》として雷《らい》の響《ひゞき》。
 藻抜《もぬ》けのやうに立《た》つて居《ゐ》た、私《わし》が魂《たましひ》は身《み》に戻《もど》つた、其方《そなた》を拝《をが》むと斉《ひと》しく、杖《つえ》をかい込《こ》み、小笠《をがさ》を傾《かたむ》け、踵《くびす》を返《かへ》すと慌《あはたゞ》しく、一|
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