庵《たくわん》の切《きれ》をくわへて隅《すみ》の方《はう》へ引込《ひきこ》むいぢらしさ。
 弥《いよい》よ明日《あす》が手術《しゆじゆつ》といふ夜《よ》は、皆《みんな》寝静《ねしづ》まつてから、しく/\蚊《か》のやうに泣《な》いて居《ゐ》るのを、手水《てうづ》に起《お》きた娘《むすめ》が見《み》つけてあまりの不便《ふびん》さに抱《だ》いて寝《ね》てやつた。
 さて療治《れうぢ》となると例《れい》の如《ごと》く娘《むすめ》が背後《うしろ》から抱《だ》いて居《ゐ》たから、脂汗《あぶらあせ》を流《なが》しながら切《き》れものが入《はい》るのを、感心《かんしん》にじつと耐《こら》へたのに、何処《どこ》を切違《きりちが》へたか、それから流《なが》れ出《だ》した血《ち》が留《と》まらず、見《み》る/\内《うち》に色《いろ》が変《かは》つて、危《あぶな》くなつた。
 医者《いしや》も蒼《あを》くなつて、騒《さわ》いだが、神《かみ》の扶《たす》けか漸《やうや》う生命《いのち》は取留《とりと》まり、三|日《か》ばかりで血《ち》も留《とま》つたが、到頭《たうとう》腰《こし》が抜《ぬ》けた、固《もと》より不
前へ 次へ
全147ページ中139ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング