語《かた》らず唯《たゞ》思入《おもひい》つて然《さ》う言《い》ふたが、実《じつ》は以前《いぜん》から様子《やうす》でも知《し》れる、金釵玉簪《きんさぎよくさん》をかざし、蝶衣《てふい》を纒《まと》ふて、珠履《しゆり》を穿《うが》たば、正《まさ》に驪山《りさん》に入《い》つて陛下《へいか》と相抱《あひいだ》くべき豊肥妖艶《ほうひえうえん》の人《ひと》が其《その》男《をとこ》に対《たい》する取廻《とりまは》しの優《やさ》しさ、隔《へだて》なさ、親切《しんせつ》さに、人事《ひとごと》ながら嬉《うれ》しくて、思《おも》はず涙《なみだ》が流《なが》れたのぢや。
すると人《ひと》の腹《はら》の中《なか》を読《よ》みかねるやうな婦人《をんな》ではない、忽《たちま》ち様子《やうす》を悟《さと》つたかして、
(貴僧《あなた》は真個《ほんとう》にお優《やさ》しい。)といつて、得《え》も謂《い》はれぬ色《いろ》を目《め》に湛《たゝ》へて、ぢつと見《み》た。私《わし》も首《かうべ》を低《た》れた、むかふでも差俯向《さしうつむ》く。
いや、行燈《あんどう》が又《また》薄暗《うすくら》くなつて参《まゐ》つたや
前へ
次へ
全147ページ中110ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング