。
品物《しなもの》は佗《わび》しいが、なか/\の御手料理《おてれうり》、餓《う》えては居《ゐ》るし冥加《みやうが》至極《しごく》なお給仕《きふじ》、盆《ぼん》を膝《ひざ》に構《かま》へて其上《そのうへ》を肱《ひぢ》をついて、頬《ほゝ》を支《さゝ》えながら、嬉《うれ》しさうに見《み》て居《ゐ》たわ。
椽側《えんがは》に居《ゐ》た白痴《あはう》は誰《たれ》も取合《とりあ》はぬ徒然《つれ/″\》に堪《た》へられなくなつたものか、ぐた/\と膝行出《いざりだ》して、婦人《をんな》の傍《そば》へ其《そ》の便々《べん/\》たる腹《はら》を持《も》つて来《き》たが、崩《くづ》れたやうに胡座《あぐら》して、頻《しきり》に恁《か》う我《わし》が膳《ぜん》を視《なが》めて、指《ゆびさし》をした。
(うゝ/\、うゝ/\。)
(何《なん》でございますね、あとでお食《あが》んなさい、お客様《きやくさま》ぢやあゝりませんか。)
白痴《あはう》は情《なさけ》ない顔《かほ》をして口《くち》を曲《ゆが》めながら頭《かぶり》を掉《ふ》つた。
(厭《いや》? 仕様《しやう》がありませんね、それぢや御一所《ごいつしよ》に召《め》しあがれ。貴僧《あなた》御免《ごめん》を蒙《かうむ》りますよ。)
私《わし》は思《おも》はず箸《はし》を置《お》いて、
(さあ何《ど》うぞお構《かま》ひなく、飛《とん》だ御雑作《ござふさ》を、頂《いたゞ》きます。)
(否《いえ》、何《なん》の貴僧《あなた》。お前《まい》さん後程《のちほど》に私《わたし》と一所《いつしよ》にお食《た》べなされば可《いゝ》のに。困《こま》つた人《ひと》でございますよ。)とそらさぬ愛想《あいさう》、手早《てばや》く同一《おなじ》やうな膳《ぜん》を拵《こしら》えてならべて出《だ》した。
飯《めし》のつけやうも効々《かひ/″\》しい女房《にようばう》ぶり、然《しか》も何《なん》となく奥床《おくゆか》しい、上品《じやうひん》な、高家《かうけ》の風《ふう》がある。
白痴《あはう》はどんよりした目《め》をあげて膳《ぜん》の上《うへ》を睨《ね》めて居《ゐ》たが、
(彼《あれ》を、あゝ、彼《あれ》、彼《あれ》。)といつてきよろ/\と四辺《あたり》を※[#「目+旬」、第3水準1−88−80]《みまは》す。
婦人《をんな》は熟《ぢつ》と瞻《みまも》つて、
(
前へ
次へ
全74ページ中50ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング