へん》ずるわ。
 と親仁《おやぢ》が其時《そのとき》物語《ものがた》つて、御坊《ごばう》は、孤家《ひとつや》の周囲《ぐるり》で、猿《さる》を見《み》たらう、蟇《ひき》を見《み》たらう、蝙蝠《かうもり》を見《み》たであらう、兎《うさぎ》も蛇《へび》も皆《みんな》嬢様《ぢやうさま》に谷川《たにがは》の水《みづ》を浴《あ》びせられて、畜生《ちくしやう》にされたる輩《やから》!
 あはれ其時《そのとき》那《あ》の婦人《をんな》が、蟇《ひき》に絡《まつは》られたのも、猿《さる》に抱《だ》かれたのも、蝙蝠《かうもり》に吸《す》はれたのも、夜中《よなか》に※[#「魅」の「未」に代えて「知」、61−5]魅魍魎《ちみまうりやう》に魘《おそ》はれたのも、思出《おもひだ》して、私《わし》は犇々《ひし/\》と胸《むね》に当《あた》つた、
 なほ親仁《おやぢ》のいふやう。
 今《いま》の白痴《ばか》も、件《くだん》の評判《ひやうばん》の高《たか》かつた頃《ころ》、医者《いしや》の内《うち》へ来《き》た病人《びやうにん》、其頃《そのころ》は未《ま》だ子供《こども》、朴訥《ぼくとつ》な父親《てゝおや》が附添《つきそ》ひ、髪《かみ》の長《なが》い、兄貴《あにき》がおぶつて山《やま》から出《で》て来《き》た。脚《あし》に難渋《なんじう》な腫物《しゆもつ》があつた、其《そ》の療治《れうぢ》を頼《たの》んだので。
 固《もと》より一|室《ま》を借受《かりう》けて、逗留《たうりう》をして居《を》つたが、かほどの悩《なやみ》は大事《おほごと》ぢや、血《ち》も大分《だいぶん》に出《だ》さねばならぬ殊《こと》に子供《こども》手《て》を下《お》ろすには体《からだ》に精分《せいぶん》をつけてからと、先《ま》づ一|日《にち》に三ツづゝ鶏卵《たまご》を飲《の》まして、気休《きやす》めに膏薬《かうやく》を張《は》つて置《お》く。
 其《そ》の膏薬《かうやく》を剥《は》がすにも親《おや》や兄《あに》、又《また》傍《そば》のものが手《て》を懸《か》けると、堅《かた》くなつて硬《こは》ばつたのが、めり/\と肉《にく》にくツついて取《と》れる、ひい/\と泣《な》くのぢやが、娘《むすめ》が手《て》をかけてやれば黙《だま》つて耐《こら》へた。
 一|体《たい》は医者殿《いしやどの》、手《て》のつけやうがなくつて、身《み》の衰《おとろ
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