て、湯《ゆ》ともいはず、ふツ/\と太儀《たいぎ》さうに呼吸《いき》を向《むか》ふへ吐《つ》くわさ。
(何《なん》でございますか、私《わたし》は胸《むね》に支《つか》へましたやうで、些少《ちつと》も欲《ほ》しくございませんから、又《また》後程《のちほど》に頂《いたゞ》きましやう、)と婦人《をんな》自分《じぶん》は箸《はし》も取《と》らずに二《ふた》ツの膳《ぜん》を片《かた》つけてな。」

         第二十一

「頃刻《しばらく》悄乎《しよんぼり》して居《ゐ》たつけ。
(貴僧《あなた》嘸《さぞ》お疲労《つかれ》、直《す》ぐにお休《やす》ませ申《まを》しませうか。)
(難有《ありがた》う存《ぞん》じます、未《ま》だ些《ちツ》とも眠《ねむ》くはござりません、前刻《さツき》体《からだ》を洗《あら》ひましたので草臥《くたびれ》もすつかり復《なほ》りました。)
(那《あ》の流《なが》れは其麼《どんな》病《やまひ》にでもよく利《き》きます、私《わたし》が苦労《くらう》をいたしまして骨《ほね》と皮《かは》ばかりに体《からだ》が朽《か》れましても半日《はんにち》彼処《あすこ》につかつて居《を》りますと、水々《みづ/\》しくなるのでございますよ。尤《もツと》も那《あ》のこれから冬《ふゆ》になりまして山《やま》が宛然《まるで》氷《こほ》つて了《しま》ひ、川《かは》も崖《がけ》も不残《のこらず》雪《ゆき》になりましても、貴僧《あなた》が行水《ぎやうずゐ》を遊《あそ》ばした彼処《あすこ》ばかりは水《みづ》が隠《かく》れません、然《さ》うしていきりが立《た》ちます。
 鉄砲疵《てツぱうきづ》のございます猿《さる》だの、貴僧《あなた》、足《あし》を折《を》つた五位鷺《ごゐさぎ》、種々《いろ/\》な者《もの》が浴《ゆあ》みに参《まゐ》りますから其《そ》の足痕《あしあと》で崖《がけ》の路《みち》が出来《でき》ます位《くらゐ》、屹《きツ》と其《それ》が利《き》いたのでございませう。
 那様《そんな》にございませんければ恁《か》うやつてお話《はなし》をなすつて下《くだ》さいまし、淋《さび》しくつてなりません、本当《ほんと》にお可愧《はづか》しうございますが恁麼《こんな》山《やま》の中《なか》に引籠《ひツこも》つてをりますと、ものをいふことも忘《わす》れましたやうで、心細《こゝろぼそ》いのでございま
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