く、夫に対しては貞淑な妻、子に対しては賢明な母と成り得るに違いありません。『更級日記《さらしなにっき》』の著者は、東国の田舎《いなか》にいた娘の時代から文学書を読んで、どうか女に生れた上は『源氏物語』の夕顔《ゆうがお》や浮舟《うきふね》のような美しい女になって少時《しばらく》でも光源氏《ひかるげんじ》のような情《なさけ》ある男に思われたいと、専らその心掛で身を修め、終《つい》に都に上《のぼ》って『狭衣《さごろも》』の如き小説を書くに到りました。今の若い女子にこれ位の自負もないのは口惜しゅう御座います。光源氏の恋人になろうと申すのと、拙《つたな》い絵や音楽に騙《だまさ》れて、沢山の女学生や夫人までが輒《たやす》く電小僧《いなずまこぞう》の情婦になるのとは大変な相違です。
[#下げて、地より1字あきで](『東京二六新聞』一九〇九年四月八―一一日)



底本:「与謝野晶子評論集」岩波文庫、岩波書店
   1985(昭和60)年8月16日初版発行
   1994(平成6年)年6月6日10刷発行
底本の親本:「一隅より」金尾文淵堂
   1911(明治44)年7月初版発行
入力:Nana ohbe
校正:門田裕志
2002年1月10日公開
2003年5月18日修正
青空文庫ファイル:
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