ている事実を両女史は何と見られるのでしょうか。甚だ露骨な事をいうようですが、両女史は経済的労働を必要とする家庭にお育ちにならず、従ってそういう労働の習慣をお持ちにならないのではないのですか。
 今度の戦争に由って、意外にも女子の労働能力が男子に比べて甲乙のないことが確認される機会を得ました。最早この事は多くの弁明を要しない事実ですから、右に挙げた第二の反対説も根拠を失ったといって宜しい。第三の反対説は厳粛な文化生活の意義を解しない人々のセンチメンタリズムとして唯だ微笑して置けば好いでしょう。

 女子を閨房《けいぼう》と台所とに幽閉することなく、これに職業を与える事は我国においても早くから実行されていますが、しかしその職業の範囲を男女平等主義に由って拡げることについては全く拒まれています。リップスは女子の職業を肯定して「この問題に対する一般的の解答は、すべての人はその特殊なる天性と能力とに従って、その力に及ぶ限りの利と善とを(即ち文化価値を)この世界に造り出さなければならぬという規則である。この外に婦人の職業を決定すべき特殊なる規則の必要はない」といいました。女子にも一切の職業を解放して、女子自身の実力に応じた選択に任せたなら、そうして今日の女子を奮起させる必要上、特に職業上の自由競争を奨励するなら、山川菊栄女史のいわれたように、日本の婦人界も一人や二人の婦人理学士を珍重がるようなみすぼらしい状態には停滞していないでしょう。
 リップスが「人は出たらめに婦人の能力を否定せずに、確実なる経験にこれを決定させる必要がある。そのためには、女性にその力を試《た》めし、その力を発展すべき機会と権利とを与えなければならない。これを開展させずに萎縮《いしゅく》させて置く限り、女性に如何なる力が潜んでいるか、何人《なんぴと》も知ることが出来ない。……同時に人はこの問題について、単に女性という一般概念を以て議論を進めることを避けねばならない。女性もまたいろいろである、一人の女性の天性に適しないことで、他の女性の天性に適することもまた有り得るのである」といった真理に、日本の男子も女子も深い反省を取られることを私は熱望します。

 以上は甚だ粗雑な説明となりましたが、私はこの五つの条件の上に基礎を置くことに由って、初めて女子の改造が押しも押されもしない堅実性を持つと思います。これらの条件
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