下に予《あらかじ》めこういう風に作れといって旧套的《きゅうとうてき》な概念を授けて書かせます。それでどの生徒の作った文章もその内容は同じ物で、唯《た》だ文字の末節が少し異るばかり、生徒自身が頭脳を働かせて個性の新味を示した物は殆ど現われておりません。そういう教育法は人間の個性を殺すものですから母たる者は学校に向って抗議するのが当然ですけれど、窃《ひそか》に聡明を以て任じているそれらの新主婦たちは全くこういう事実を等閑に附しております。
私は突飛な、また過激な言動が必ずしも改革者の言動であるとは思いませんが、こういう平穏な、悪くいえば煮え切らない婦人界の進歩的傾向を歯痒《はがゆ》く感じます。
生きたい意欲
ここに私の希望を述べます。私たち日本婦人は遅蒔《おそまき》ながら今こそ一斉に目を覚《さま》して自分自身を反省せねばならない時です。何がために生きているのかを知らずに盲目的な日送りをしていた私たちは何よりも先ず自分の生きて行きたいと望む意欲が人生の基礎であり、その意欲を実現することが人生の目的であることを徹底して知るのが第一です。自己の絶対的尊厳の意味もそれで領解されます。
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