たのは、今後の夫婦生活の理想として、まことに合理的だと考えます。こういう風に経済の保障が確立している夫婦生活の中でなければ、母性の順当な実現は覚束《おぼつか》ないことだと思います。
 平塚さんが「母の職能を尽し得ないほど貧困な者」に対して国家の保護を要求せられることには勿論私も賛成します。しかしその事を以て、私が「老衰者や癈人が養育院の世話になるのと同一である」といったことを、平塚さんが「間違っている」といわれるのは合点が行きません。老衰者や癈人の不幸はあるいは不可抗力的な運命に由ってその境遇に追い入れられるとも考えられるのですが、貧困にして母の職能を尽し得ない婦人の不幸は、私たちの主張するように、経済的に独立する自覚と努力とさえ人間にあればその境遇に沈淪《ちんりん》することを予《あらかじ》め避けることの出来る性質の不幸だと思います。私たちはその不幸を避けるために、女子の経済上の独立を主張し、「今後の生活の原則としては、男も女も自分たち夫婦の物質的生活は勿論、未来に生るべき我子の哺育と教育とを持続し完成し得るだけの経済上の保障が、相互の労働に由って得られる確信があり、それだけの財力が既
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