へんい》させて考えることを欲しません。私が賢母良妻主義に反対するのも一つは同じ理由からです。勿論父たり母たることに人生の重要な内容の一つとして相対的の価値を認めることは何人《なんぴと》にも譲らないつもりでおります。しかし必ずしも「婦人が母たることに由って」特に最上の幸福を実現し得るものとは決して考えておりません。人間はその素質と境遇とそれらを改造する努力とに由って為《な》し得る限りの道徳生活を建設することが最上の幸福であると信じております。もし平塚さんの主張の通りにすれば、エレン・ケイ女史が人の妻ともならず、人の母ともならずに、著述家を以て一生を送りつつある如きことは、平塚さんのいわゆる「個人的存在の域」を脱しない不幸な婦人といわねばならないことになるでしょう。
私は平塚さんとは異った立場から、固《もと》より正当に母性を尊重します。さればこそ、女性の尊厳を維持しつつ、出来るだけ順当な母性の実現を期するためにも、私は女子の経済的に独立することが必要であると述べているのです。これについては一条忠衛《いちじょうただえ》さんが近刊の『六合《りくごう》雑誌』で「夫婦の扶養義務について」と題して
前へ
次へ
全17ページ中3ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
与謝野 晶子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング