字点、1−2−22]男子の寄生者として屈従の生活、一種の売淫生活を送る者の増加すると共に、男子に寄生し得ないで、平塚さんにおいては正当なる権利の主張として、私に取っては養育院の世話になる老衰者や癈人と同じ不幸な依頼主義者として、国家の特殊なる保護を要求する者が層一層繁殖して行く結果となるでしょう。
 さなきだに、私は、近頃の都会において、売笑を職業とする婦人以外に、普通の家庭にある女子で、男子の注意を引くことの意志を最も露骨に示した、厚化粧と、過度な派手好みの服装と、厭うべき媚態とを備えた、娼婦型の女子の目立って増加したことについて、窃《ひそ》かに顰蹙《ひんしゅく》している一人です。それらの女子は精神的には勿論、経済的に無力なために、労働を以て独立しようとはせずに、廉恥も名誉も忘れて、唯だ身を以て男子に売ろうとしつつある者としか考えられません。これは男子の成金気質に附随して発生した一時的現象かも知れませんが、不完全ながらも現代の教育を受けた女子が、こういう風に頽廃した傾向を示すことは怖ろしいことだと思います。時代遅れの寄生的気分に満ちた、こういう懶惰《らんだ》な遊民的女子の将来が如何に不幸であるかは平塚さんも認められるでしょう。彼らが他日「母の職能を尽し得ないほどの貧困」に陥る危険が予想されているにかかわらず、その危険の時が来たら国家が彼らを保護する義務を当然持っているからと云って、現状のままに放擲《ほうてき》して置いて好いでしょうか。
 平塚さんは「国家」というものに多大の期待をかけておられるようですが、この点も私と多少一致しがたいように考えます。平塚さんのいわれる「国家」は現状のままの国家ではなくて、勿論理想的に改造された国家の意味でしょう。それなら、個人の改造が第一の急務でなければなりません。改造された個人の力を集めなければ改造された国家は実現されないはずです。平塚さんは私への抗議の中で、なぜ「国家」を多く説いて、一言も個人の尊厳と可能性とに及ばれなかったのでしょうか。平塚さんの見識がもし個人の改造を首位に置かれたなら、女子を警醒して経済的に独立の精神を訓練させることが私たち各自の人格改造に最も急要な事実の一つであることを、私たちと共に同感されたであろうと思います。
 「国家」の場合にだけ改造された国家を予想しながら、未来の女子と社会状態については改造されたそ
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