ると思っています。その必要も人間の進化が精神的に高まって行くに従って減少して行かねばならぬ性質のものです。人間が真の福祉に生きる理想生活の実現される時は経済的労働から解放された時であろうと思います。この意味において、私は資本主義的経済関係に束縛されている現在の低級な人類生活を、更に層一層より[#「より」に傍点]善き理想的秩序の中へ進化させようとする共通の目的において一致した凡ての新思想と凡ての新主義に味方する者です。山川さんがこれを反対に忖度《そんたく》して、私の議論が専ら資本主義の勃興《ぼっこう》に伴う社会的変化を顧慮し、その範囲において「かかる難境を無難に漕《こ》ぎ抜けるにはどう[#「どう」に傍点]したら好いかという問題を中心としている」といわれたのは、それは花の日会や救世軍などの慈善運動に奔走する婦人たちにこそ適評となるでしょうが、私に対しては「否」という外はありません。
 しかし千里の路も一歩から初めます。人間生活は長足の進歩をしたとはいえ、高遠な理想生活の全階段からいえば、まだ物質的条件が優勢な位地を占め、主客|顛倒《てんとう》して、財貨の多少が精神生活の上にかえって支配権を
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