しき
画師の君わが歌よみし京洛の山は黄金の泥《でい》して描《か》けな
白《はく》牡丹さける車のかよひ路に砂金《しやごん》しかせて暮を待つべき
おん胸の石をすべりし逸矢《それや》ともつくつく日記《にき》を見る日もありぬ
扇ふたつ胡蝶のさまに夕闇の中をよりきぬ灯のあづま屋に
菜の花の御寺も桃のおん堂も仏うまるる人まうでかな
ひがし山やどのあるじにおどされぬひひなぬすみて来しやとばかり
やはらかき少女《をとめ》が胸の春草に飼はるるわかき駒とこそ思へ
君うれし恋ふと告げたる一瞬に老いてし人をよくみとりける
あらし山雨の戸出でて大きなる舟に人まつただひとりかな
この雨に暮れむとするやひもすがら牡丹のうへを横し斜《ななめ》し
秋かぜは鈴《れい》の音かな山裾の花野見る家の軒おとづれぬ
春の雨橋をわたらむ朝ならば君は金糸《きんし》の簑《みの》して行けな
秋の風きたる十方玲瓏《じふばうれいろう》に空と山野と人と水とに
わが哀慕雨とふる日に※[#「虫+車」、第3水準1−91−55]《いとど》死ぬ蝉死ぬとしも暦を作れ
川ぞひの芒《すすき》と葦のうす月夜小桶はこびぬ鮎ひたすとて
よき朝に君を見たりきよき宵におん手とりしと童泣《わらはなき》すも
まくら二尺さりて水ゆくあづま屋に螢こよなうもてはやす人
舞の手を師のほめたりと紺暖簾《こんのれん》入りて母見し日もわすれめや
あけがたの鶯ききし空耳の君がまた寝を難じて居たり
わが肩にいとやごとなき髪おちてやがて捲《ま》かれて消し春の夢
君に似しさなりかしこき二心《にしん》こそ月を生みけめ日をつくりけめ
この恋君《こひぎみ》うらみたまへどそひぶしの寝物語もさまよきほどに
野ゆく君花に聴かずや語部《かたりべ》も伝へずありし幾ものがたり
おもはれぬ人のすさびは夜の二時に黒髪すきぬ山ほととぎす
月の夜をさそへど出でずこほろぎを待つと云ふなるとなり人かな
春の月おとうとふたり笛ふいて上ゆく岡を母とながめぬ
きぬぎぬや春の村びとまださめぬ水をわたりし河下の橋
春の朝われ黒髪にたきものす鶯まゐれ目ざめし人に
炉にむかひ鼓あぶりてものいふを少女と誉めぬわれいつく母
君が妻はなでしこ※[#「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2−13−28]して月の夜に鮎の籠あむ玉川の里
夕ぐれのさびしき池を
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