云ふのもなければならぬ説明である。
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取らんとて逃ぐるを恐る美くしき手は美くしき小鳥なるべし
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恋人の手を取らうとした刹那に、この自分の手が其処へ行くまでに飛び立つてしまはないであらうか、取返しの附かぬ失望を次の瞬間から自分は味はねばならないのではなからうかと恐れた。美くしい手と云ふ物は美くしい小鳥と同じ性質の物であつたからこんな思ひも自分にさせたのであると云ふのであつて、作者は単に手の美だけを云はうとしたのではない。どれ程現実の物以上に理想化してその恋人を思つて居るかを一端だけ云つて見せたのである。
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薔薇の散る低き音にもわななきぬ恋の心は臆せると似る
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二人で居る時の心境とも、一人で居る時の心もちとも思へるのであるが、私は作者の意は二人の方であらうと見る。幽《かす》かな薔薇の花片の落る音が耳に入り、また相手も聞いたことを知つて居るのであるから、此の時は歓談も尽きて沈黙が二人を領して居たに違ひない。恋をする者は臆病者のやうに不安に慄かれる、今の幽かな音が相手の心を別
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