の一つを破つてしまひたい気に自分はなつて居ると云ふのである。
[#ここから2字下げ、22字詰め]
乾漆《かんしつ》か木彫《もくてう》かとて役人がゆびもて弾《はじ》く如意輪の像
[#ここで字下げ終わり]
 大和あたりの古い寺へ係りの役所の吏員が来て乾漆で成つた仏像か、木彫仏かと云つて、指で如意輪観音の黒ずんだ像を弾いて見てゐる。彼等は仏像そのものに対して不謹慎であるばかりでなく、いみじい古美術に何らの尊敬を払はうとして居ない。骨董品の性質を調べ上げて能事終るとして居ると云ふのであるが、是れも作者自身を見る世間の目を飽き足らず思つての作であらう。
[#ここから2字下げ、22字詰め]
その人に我れ代らんと叫べども同じ重荷を負へばかひなし
[#ここで字下げ終わり]
 これは恋の歌ではなく、友情から発した悲憤の声であらうと思はれる。ある気の毒な境遇に居る人を自分の力で救ひ出さうと思つたが、顧れば自分もその人と同じだけの重荷を負つてゐて、身じろぎも出来ないのであつた。上げた叫びも空なものになつたと悲んで居る。
[#ここから2字下げ、22字詰め]
美くしき太陽七つ出づと云ふ予言はなきやわが明日のため
前へ 次へ
全48ページ中15ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
与謝野 晶子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング