欺いて、その一地方のためにあるいは鉄道を敷設するとか、あるいは郡役所を移すとかいう直接の利益を計ることを口実としていましたが、国民はそれらの交換問題に由って投票の良心を左右されてはなりません。衆議院議員は日本の国是《こくぜ》を討議するための国民の代表者であって、府県会議員のように一地方の利害問題に局促《きょくそく》たるべきものではありません。そういう口実を信頼して選挙する人は、その神聖な選挙権をみずから侮辱していることに当ります。
 多数の候補者の政見はあくまでも選挙民の心の中において批判されることを要します。候補者の意見に盲従したのは在来の愚劣な習慣でありました。今後の政治を賢い立憲政治とするには、選挙民自身が他人の意見や勧誘に雷同し屈従することなく、聡明な個人主義の見地から候補者の意見を批判し、その合理的であることが正しく腑《ふ》に落ちて、自分の要求と共鳴することを発見した上で、初めて自分の代表者たる聖職をその候補者に委任するようにせねばなりません。それでこそ衆議院における代議士の発言は民意の真の代表であり、衆議院の制定した法律と、協賛した歳計予算とは国民自身の責任に帰して遺憾がな
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