い訳であると思います。
選挙界の言論を尊重するということは、言論の自由を尊重すると共に、言論の価値を尊重することでなくてはなりません。私はこの度の総選挙に全く黄白《こうはく》の力が駆逐されて言論に由る政見の力が選挙民の良心を感動させることを望む意味から、どの候補者も卓越した政見の発表に努力し、どの選挙民も進んで候補者の政見を傾聴しようと心掛け、口頭の能弁に誤られることなくして、その言論の表示する政見の価値を第一に批判することの習慣を作って欲しいと思います。
そうして、私が特に婦人としての立場から望ましいことは、候補者の徳操の条件の中に、男女道徳の実践について現に非難すべき所のないことを必ず加えて頂きたいと思います。婦人に関する私行の修まらない人は既に個人生活の上に自敬と倫理的調節とを欠如して協同生活の第一歩を誤っている男子です。私はかつて「肉体的の放縦は精神的放縦の象徴です。自分の魂の純正、純浄、純一を愛重し、貫徹しようとする欲望を理性に由って肯定する人に取って、その魂を汚すような肉体的の放縦|猥雑《わいざつ》に堪え得ないことは当然です」といいました。リップスに依《よ》れば、自分の最も近い所から改善し得ない人は倫理的に弱い人だといわれます。この意味から、男女道徳について現に非難すべき所を持っている人は、一国の政治に与《あずか》り、全日本人の生活の改善を討議する代議士の聖職から当然除外さるべきものであろうと考えます。少くともこういう条件を反省して見るまでに選挙界の倫理観念が緊張することを私は祈って置きます。(一九一七年四月)
[#地より1字上げ](『大阪毎日新聞』一九一七年二月二七日―三月四日)
底本:「与謝野晶子評論集」岩波文庫、岩波書店
1985(昭和60)年8月16日初版発行
1994(平成6年)年6月6日10刷発行
底本の親本:「愛、理性及び勇気」阿蘭陀書房
1917(大正6)年10月初版発行
入力:Nana ohbe
校正:門田裕志
2002年5月14日作成
2003年5月18日修正
青空文庫ファイル:
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