台風
與謝野晶子
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)凄《すさま》じい
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)此|吹降《ふきぶり》は
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#濁点付き片仮名ヱ、1−7−84]ルアラン
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八月十三日。
昨夜は夜通し蒸暑くて寝苦しかつた。夕刊の新聞に台風が東京をも襲ふ筈だと書いてあつたが、夜の十時頃から果してそれらしい風が吹き出した。併し雨はまだ小降であつた。蚊遣線香が無くなつたので十一時で筆を止めて蚊帳の中に入つたが、寝苦しいままに何時しかうとうととすると、アウギュストが啼いたので目が覚めた、もう夜明である。白んだ戸の隙間から吹き込む風で蚊帳が凄《すさま》じい程|煽《あふ》られて居る。次の室から起きて来た二人の女の児が戸の間から庭を覗いてコスモスもダアリヤも折れて仕舞つたと言つて居る。劇しい風雨の音が山中で聴いて居るやうである。
台風と云ふ新語が面白い。立秋の日も数日前に過ぎたのであるから、従来の
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