問題とされたことが、失礼ながら平塚さんたちの間違《まちがい》でなかったかと思います。花柳病の害毒から、啻《ただ》に家庭婦人と家庭男子とばかりでなく、一切の男女を保護せねばならない事は、文化生活の一条件として今更論ずるまでもないことですが、その実行に到っては別に適当な機会と適当な方法とがあります。平塚さんたちも早くそれを承知されていて、「しかしこれは今述べたような花柳病の一般的取締でなく、むしろその中のほんの一部分に限られています」と明言されているのですが、私は「ほんの一部分」である所のこの請願を以て余計なことだと考えます。花柳病の一部分的取締のために、強いてこれを遂行しようとすれば、前述のようにいろいろの矛盾が生じます。
 殊に私は、結婚については恋愛のみを主として考えたい。殺風景な花柳病などを問題としたく思いません。一概に臭い物に蓋《ふた》をせよと言うのでなく、臭い物は別に始末すれば宜ろしい。美くしい芸術品などの前ではそれを考えたくないと思うのです。こういえば詩人の空想だと嗤《わら》う人たちがあるかも知れませんが、芸術気質と共に科学気質をも尊重する私は、花柳病の取締は取締で別に出来る
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