という実際の利益を十分に嬉しく感じながらも、一面では、寺内内閣の施設さえ早く宜しきを得ていたら、こうした心にもない恩恵を受けなくても済むものをと思って、一種の遺憾と不快とを抑えることが出来ません。
 寺内内閣が天下の器でないことは、このたびの暴動を激成したことに由って余りに明かになりました。国民は既に挙《こぞ》って寺内内閣の弔鐘を打っております。
 寺内内閣が直ぐに崩壊すると否とにかかわらず、また食糧騒動がこれきり鎮静すると否とにかかわらず、物価暴騰の事実は依然重大な社会事実として残っております。恩恵的行為である、内外米の廉売の如きは、目前の危急を一時的に救う変則的調節策に過ぎません。為政者は異常の時に異常の策を撰んで、米の不足を補うために本年度の酒造を全く禁止するも宜しいでしょう。食糧を初めその他の第一必要品の配給を容易にするためには、船腹の不足を補って多数の軍艦を代用するも好く、全国の汽車をそれらの運輸のために臨時に無賃とするも好いでしょう。また私たち無産階級のみが外米を食べるのでなくて、河上肇《かわかみはじめ》博士の説の如く、貴族と有産階級とに論なく、臨機の処置として国民全体が一
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