に、こういう無秩序、不節制、不仁狂暴の動物的妄動を敢てするに到るものであるかと思って、私はむしろ官僚教育の効果の大いなるのに驚く者です。
さて着眼点を更《か》えて私は思います。寺内内閣は、どうして民衆の生命に関する問題をこうまで危険に瀕《ひん》せしめたのでしょうか。どうして民衆の精神と行為をこうまで動物的に逆転せしめたのでしょうか。
昔の哲人は「いまだ兆《きざ》さざる時は謀《はか》りやすし」といい、「これをいまだ乱れざるに治めよ」と言いました。寺内内閣にして早く就任当時においてこれに気が附いていたならば、これに備えて禍を未然に防ぐだけの時日は十分にあったのです。物価の法外な騰貴は決して今年に入って以来の現象ではなく、二年以前において既に何人にも目に余る事実であったのですが、政府当局者は常に楽観的大言を放って、在野の識者の忠告に耳を仮さず、物価暴騰の原因である通貨の膨脹、物資供給の減少、投機的資本家の買占、運輸機関の不足等について、何らの臨機の施設をも断行しませんでした。そうして最近に及んで遅れ馳《ば》せに暴利取締令を出したり、全国にわたって十|石《こく》以上の貯蔵米を申告させたり、
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