幻想を醗酵する季節、
冬よ、そなたの前に、
一人《ひとり》の厭人主義者《ミザントロオプ》も無ければ、
一人《ひとり》の卑怯《ひけふ》者も無い、
人は皆、十二の偉勲を建てた
ヘルクレスの子孫のやうに見える。
わたしは更に冬を讃《たゝ》へる。
まあ何《なん》と云《い》ふ
優しい、なつかしい他《た》の一面を
冬よ、そなたの持つてゐることぞ。
その永い、しめやかな夜《よる》。……
榾《ほだ》を焚《た》く田舎の囲炉裏《いろり》……
都会のサロンの煖炉《ストオブ》……
おお家庭の季節、夜会《やくわい》の季節
会話の、読書の、
音楽の、劇の、踊《をどり》の、
愛の、鑑賞の、哲学の季節、
乳呑児《ちのみご》のために
罎《びん》の牛乳の腐らぬ季節、
小《ち》さいセエヴルの杯《さかづき》で
夜会服《ロオブデコルテ》の
貴女《きぢよ》も飲むリキユルの季節。
とり分《わ》き日本では
寒念仏《かんねんぶつ》の、
臘八《らふはち》坐禅の、
夜業の、寒稽古《かんげいこ》の、
砧《きぬた》の、香《かう》の、
茶の湯の季節、
紫の二枚|襲《がさね》に
唐織《からおり》の帯の落着く季節、
梅もどきの、
寒菊《かんぎく
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