日よ、曙《あけぼの》の女王《ぢよわう》よ。

日よ、君にも夜《よる》と冬の悩みあり、
千万年の昔より幾億たび、
死の苦に堪《た》へて若返る
天《あま》つ焔の力の雄雄《をを》しきかな。
われは猶《なほ》君に従はん、
わが生きて返れるは纔《わずか》に八《や》たびのみ
纔《わづか》に八《や》たび絶叫と、血と、
死の闇《やみ》とを超えしのみ。


    颱風

ああ颱風、
初秋《はつあき》の野を越えて
都を襲ふ颱風、
汝《なんぢ》こそ逞《たくま》しき大馬《おほうま》の群《むれ》なれ。

黄銅《くわうどう》の背《せな》、
鉄の脚《あし》、黄金《きん》の蹄《ひづめ》、
眼に遠き太陽を掛け、
鬣《たてがみ》に銀を散らしぬ。

火の鼻息《はないき》に
水晶の雨を吹き、
暴《あら》く斜めに、
駆歩《くほ》す、駆歩《くほ》す。

ああ抑《おさ》へがたき
天《てん》の大馬《おほうま》の群《むれ》よ、
怒《いか》れるや、
戯れて遊ぶや。

大樹《だいじゆ》は逃《のが》れんとして、
地中の足を挙げ、
骨を挫《くじ》き、手を折る。
空には飛ぶ鳥も無し。

人は怖《おそ》れて戸を鎖《さ》せど、
世を裂く蹄《ひ
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