へ》の
名前人《なまへにん》と家族。


    駄獣《だじう》の群《むれ》

ああ、此《この》国の
怖《おそ》るべく且《か》つ醜き
議会の心理を知らずして
衆議院の建物を見上ぐる勿《なか》れ。
禍《わざはひ》なるかな、
此処《ここ》に入《はひ》る者は悉《ことごと》く変性《へんせい》す。
たとへば悪貨の多き国に入《い》れば
大英国の金貨も
七日《なぬか》にて鑢《やすり》に削り取られ
其《その》正しき目方を減ずる如《ごと》く、
一たび此《この》門を跨《また》げば
良心と、徳と、
理性との平衝を失はずして
人は此処《ここ》に在り難《がた》し。
見よ、此処《ここ》は最も無智なる、
最も敗徳《はいとく》[#「敗徳」はママ]なる、
はた最も卑劣無作法なる
野人《やじん》本位を以《もつ》て
人の価値を
最も粗悪に平均する処《ところ》なり。
此処《ここ》に在る者は
民衆を代表せずして
私党を樹《た》て、
人類の愛を思はずして
動物的利己を計り、
公論の代りに
私語と怒号と罵声《ばせい》とを交換す。
此処《ここ》にして彼等の勝つは
固《もと》より正義にも、聡明《そうめい》にも、
大胆にも、雄弁にもあらず、
唯《た》だ彼等|互《たがひ》に
阿附《あふ》し、模倣し、
妥協し、屈従して、
政権と黄金《わうごん》とを荷《にな》ふ
多数の駄獣《だじう》と
みづから変性《へんせい》するにあり。
彼等を選挙したるは誰《たれ》か、
彼等を寛容しつつあるは誰《たれ》か。
此《この》国の憲法は
彼等を逐《お》ふ力無し、
まして選挙権なき
われわれ大多数の
貧しき平民の力にては……
かくしつつ、年毎《としごと》に、
われわれの正義と愛、
われわれの血と汗、
われわれの自由と幸福は
最も臭《くさ》く醜き
彼等|駄獣《だじう》の群《むれ》に
寝藁《ねわら》の如《ごと》く踏みにじらる……


    或年の夏

米の値《ね》の例《れい》なくも昂《あが》りければ、
わが貧しき十人《じふにん》の家族は麦を食らふ。
わが子らは麦を嫌ひて
「お米の御飯を」と叫べり。
麦を粟《あは》に、また小豆《あづき》に改むれど、
猶《なほ》わが子らは「お米の御飯を」と叫べり。
わが子らを何《なん》と叱《しか》らん、
わかき母も心には米を好めば。

「部下の遺族をして
窮する者無からしめ給《たま》はんことを。
わが念頭に掛かるもの是《こ》れのみ」と、
佐久間大尉の遺書を思ひて、
今更にこころ咽《むせ》ばるる。


    三等局集配人(押韻)

わたしは貧しき生れ、
小学を出て、今年十八。
田舎の局に雇はれ、
一日に五《ご》ヶ村《そん》を受持ち、
集配をして身は疲れ、

暮れて帰れば、母と子と
さびしい膳《ぜん》のさし向ひ、
蜆《しゞみ》の汁で、そそくさと
済ませば、何《なん》の話も無い。
たのしみは湯へ行《ゆ》くこと。

湯で聞けば、百姓の兄さ、
皆読んで来て善《よ》くする、
大衆文学の噂《うはさ》。
わたしは唯《た》だ知つてゐる、
その円本《ゑんほん》を配る重さ。

湯が両方の足に沁《し》む。
垢《あか》と土とで濁《にご》された
底でしばらく其《そ》れを揉《も》む。
ああ此《この》足が明日《あす》もまた
桑の間《あひだ》の路《みち》を踏む。

この月も二十日《はつか》になる。
すこしの楽《らく》も無い、
もう大きな雑誌が来る。
やりきれない、やりきれない、
休めば日給が引かれる。

小説家がうらやましい、
菊池|寛《くわん》も人なれ、
こんな稼業は知るまい。
わたしは人の端くれ、
一日八十銭の集配。


    壁

バビロン人の築きたる
雲間《くもま》の塔は笑ふべし、
それにまさりて呪《のろ》はしき
巨大の塔は此処《ここ》にあり。

千億の石を積み上げて、
横は世界を巻きて展《の》び、
劔《つるぎ》を植ゑし頂《いたゞき》は
空わたる日を遮《さへぎ》りぬ。

何《なに》する壁ぞ、その内に
今日《けふ》を劃《しき》りて、人のため、
ひろびろしたる明日《あす》の日の
目路《めぢ》に入《い》るをば防ぎたり。

壁の下《もと》には万年の
小暗《をぐら》き蔭《かげ》の重《かさ》なれば、
病むが如《ごと》くに青ざめて
人は力を失ひぬ。

曇りたる目の見難《みがた》さに
行《ゆ》く方《かた》知らず泣くもあり、
羊の如《ごと》く押し合ひて
血を流しつつ死ぬもあり。

ああ人皆よ、何《なに》ゆゑに
古代の壁を出《い》でざるや、
永久《とは》の苦痛に泣きながら
猶《なほ》その壁を頼めるや。

をりをり強き人ありて
怒《いか》りて鉄の槌《つち》を振り、
つれなき壁の一隅《ひとすみ》を
崩さんとして穿《うが》てども、

衆を協《あは》せし[#「協せし」は底本では「恊せし」]凡夫《ぼんぷ》等は
彼《か》れを捕《とら
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