《つね》は素知《そし》らぬ振《ふり》ながら、
刹那《せつな》に胸の張りつめて
しやうも、やうも無い日には、
マグネシユウムを焚《た》くやうに、
機関の湯気の漏るやうに、
悲鳴を上げて身もだえて
あの白鳥《はくてう》が死ぬやうに。
夏の宵
いたましく、いたましく、
流行《はやり》の風《かぜ》に三人《みたり》まで
我児《わがこ》ぞ病める。
梅霖《つゆ》の雨しとどと降るに、汗流れ、
こんこんと、苦しき喉《のど》に咳《せき》するよ。
兄なるは身を焼く※[#「執/れっか」、100−上−6]《ねつ》に父を呼び、
泣きむづかるを、その父が
抱《いだ》きすかして、売薬の
安知歇林《アンチピリン》を飲ませども、
咳《せき》しつつ、半《なかば》ゑづきぬ[#「ゑづきぬ」は底本では「えづきぬ」]。
あはれ、此夜《このよ》のむし暑さ、
氷ぶくろを取りかへて、
団扇《うちは》とり児等《こら》を扇《あふ》げば、
蚊帳《かや》ごしに蚊のむれぞ鳴く。
如何に若き男
如何《いか》に若き男、
ダイヤの玉《たま》を百持てこ。
空手《むなで》しながら採《と》り得《う》べき
物とや思ふ、あはれ愚かに。
たをやめの、たをやめの紅《あか》きくちびる。
男
男こそ慰めはあれ、
おほぎみの側《そば》にも在りぬ、
みいくさに出《い》でても行《ゆ》きぬ、
酒《さか》ほがひ、夜通《よどほ》し遊び、
腹|立《だ》ちて罵《のゝし》りかはす。
男こそ慰めはあれ、
少女《をとめ》らに己《おの》が名を告《の》り、
厭《あ》きぬれば棄《す》てて惜《をし》まず。
夢
わが見るは人の身なれば、
死の夢を、沙漠《さばく》のなかの
青ざめし月のごとくに。
また見るは、女にしあれば
消し難《がた》き世のなかの夢。
男の胸
名工《めいこう》のきたへし刀
一尺に満たぬ短き、
するどさを我は思ひぬ。
あるときは異国人《とつくにびと》の
三角の尖《さき》あるメスを
われ得《え》まく切《せち》に願ひぬ。
いと憎き男の胸に
利《と》き白刄《しらは》あてなん刹那《せつな》、
たらたらと我袖《わがそで》にさへ
指にさへ散るべき、紅《あか》き
血を思ひ、我《わ》れほくそ笑《ゑ》み、
こころよく身さへ慄《ふる》ふよ。
その時か、にくき男の
云《い》ひがたき心|宥《ゆる》さめ。
しかは云《い》へ、
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