わたしの詩は粘土細工、
実感の彫刻は
材料に由《よ》りません。
省け、省け、
一線も
余計なものを加へまい。
自然の肉の片はしが
くつきりと
行《ぎやう》の表《おもて》に浮き上がれ。
宇宙と私
宇宙から生れて
宇宙のなかにゐる私が、
どうしてか、
その宇宙から離れてゐる。
だから、私は寂《さび》しい、
あなたと居ても寂《さび》しい。
けれど、また、折折《をりをり》、
私は宇宙に還《かへ》つて、
私が宇宙か、
宇宙が私か、解《わか》らなくなる。
その時、私の心臓が宇宙の心臓、
その時、私の目が宇宙の目、
その時、私が泣くと、
万事を忘れて泣くと、
屹度《きつと》雨が降る。
でも、今日《けふ》の私は寂《さび》しい、
その宇宙から離れてゐる。
あなたと居ても寂《さび》しい。
白楊のもと
ひともとの
冬枯《ふゆがれ》の
円葉柳《まろはやなぎ》は
野の上に
ゴシツク風の塔を立て、
その下《もと》に
野を越えて
白く光るは
遠からぬ
都の街の屋根と壁。
ここまでは
振返《ふりかへ》り
都ぞ見ゆる。
後ろ髪
引かるる思ひ為《せ》ぬは無し。
さて一歩、
つれなくも
円葉柳《まろはやなぎ》を
離るれば、
誰《たれ》も帰らぬ旅の人。
わが髪
わが髪は
又もほつるる。
朝ゆふに
なほざりならず櫛《くし》とれど。
ああ、誰《たれ》か
髪|美《うつ》くしく
一《ひと》すぢも
乱さぬことを忘るべき。
ほつるるは
髪の性《さが》なり、
やがて又
抑《おさ》へがたなき思ひなり。
坂本紅蓮洞さん
わが知れる一柱《ひとはしら》の神の御名《みな》を讃《たた》へまつる。
あはれ欠けざることなき「孤独|清貧《せいひん》」の御霊《みたま》、
ぐれんどうの命《みこと》よ。
ぐれんどうの命《みこと》にも著《つ》け給《たま》ふ衣《きぬ》あり。
よれよれの皺《しは》の波、酒染《さかじみ》の雲、
煙草《たばこ》の焼痕《やけあと》の霰《あられ》模様。
もとより痩《や》せに痩《や》せ給《たま》へば
衣《きぬ》を透《とほ》して乾物《ひもの》の如《ごと》く骨だちぬ。
背丈の高きは冬の老木《おいき》のむきだしなるが如《ごと》し。
ぐれんどうの命《みこと》の顳※[#「需+頁」、第3水準1−94−6]《こめかみ》は音楽なり、
断《た》えず不思議なる何事《なにご
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