ふ。


    晩秋

路《みち》は一《ひと》すぢ、並木路、
赤い入日《いりひ》が斜《はす》に射《さ》し、
点、点、点、点、朱《しゆ》の斑《まだら》……
桜のもみぢ、柿《かき》もみぢ、
点描派《ポアンチユリスト》の絵が燃える。

路《みち》は一《ひと》すぢ、さんらんと
彩色硝子《さいしきガラス》に照《てら》された
廊《らう》を踏むよな酔《ゑひ》ごこち、
そして心《しん》からしみじみと
涙ぐましい気にもなる。

路《みち》は一《ひと》すぢ、ひとり行《ゆ》く
わたしのためにあの空も
心中立《しんぢゆうだて》[#ルビの「しんぢゆうだて」は底本では「しんぢうだて」]に毒を飲み、
臨終《いまは》のきはにさし伸べる
赤い入日《いりひ》の唇か。

路《みち》は一《ひと》すぢ、この先に
サツフオオの住む家《いへ》があろ。
其処《そこ》には雪が降つて居よ。
出て行《ゆ》ことして今一度
泣くサツフオオが目に見える。

路《みち》は一《ひと》すぢ、秋の路《みち》、
物の盛りの尽きる路《みち》、
おお美《うつ》くしや、急ぐまい、
点、点、点、点、しばらくは
わたしの髪も朱《しゆ》の斑《まだら》……


    電灯

狭い書斎の電灯よ、
紐《ひも》で縛られ、さかさまに
吊《つ》り下げられた電灯よ、
わたしと共に十二時を
越してますます目が冴《さ》える
不眠症なる電灯よ。

わたしの夜《よる》の太陽よ、
たつた一つの電灯よ、
わたしの暗い心から
吐息と共に込み上げる
思想の水を導いて
机にてらす電灯よ。

そなたの顔も青白い、
わたしの顔も青白い。
地下室に似る沈黙に、
気は張り詰めて居ながらも、
ちらと戦《わなゝ》く電灯よ、
わたしも稀《まれ》に身をゆする。

夜《よる》は冷たく更けてゆく。
何《なに》とも知らぬ不安さよ、
近づく朝を怖《おそ》れるか、
才《さい》の終りを予知するか、
女ごころと電灯と
じつと寂《さび》しく聴き入《い》れば、

死を隠したる片隅の
陰気な蔭《かげ》のくらがりに、
柱時計の意地わるが
人の仕事と命とに
差引《さしひき》つけて、こつ、こつと
算盤《そろばん》を弾《はじ》く球《たま》の音《おと》。


    腐りゆく匂ひ

壺《つぼ》には、萎《しぼ》みゆくままに、
取換《とりか》へない白茶色《しらちやいろ》の薔薇《ばら》の花。
その横の廉物《やすもの》の仏蘭西
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