小田原より東京へ
むし暑き日の二時間、
我れは二人《ふたり》の愛国者と乗合せぬ、
二人は論じ且つ論ず。
その対象となる固有名詞は
すべて大臣大将なれど、
その末に敬称を附せざるは
二人の自負のより高きが為めならん。
満員の列車、
避くべき席も無し。
我れは久しく斯かる英雄に遇はず、
されば謹みて猶聴きぬ。
日米のこと、日露のこと
政党弾圧のこと、
首相を要せず、外務大臣を要せず、
天下は二人ありて決するが如し。
大船駅停車の二分に
我れは今日の夕刊を買ひぬ。
新聞には「昭和九年」とあれど、
我れの前の二人は明治型の国士なり。
新聞を開きて、我れは現代に返る。
一面の隅に如是閑先生の文章あり。
偶然にも取上げたる新聞は
英雄たちと我れの間に幕となりぬ。
防空演習の夜
今日《けふ》は九月一日、
誰れか震災を回顧する遑《いとま》あらん。
敵機の襲来を仮想して、
全市の人、防空に力《つと》む。
午後六時、
サイレンは鳴りわたる。
子らよ、灯を皆消せるか、
戸をすべて鎖しつるか。
良人と、我れと、
泊り合せたる是山《ぜざん》ぬしと、
暗き廊を折れ曲りて
采花荘《さいく
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