ろこし》とが
人の丈よりも高く立つ細道。
おお、何と云ふ親しさだ。
小さな紅玉を綴つた花や、
翡翠の色の長い葉が
額にも、手にも、袂にも触れる。
さうして、その度に露がこぼれる。
今朝、田舎には
どの草木にも
愛の表情と涙とが溢れて居る。
秋の匂ひ
秋の優しさ、しめやかさ。
どの木、どの草、どの葉にも、
冴えた萠葱《もえぎ》と、金色《こんじき》と、
深い紅《べに》とが入りまじり、
そして、内気なそよ風も、
水晶質のしら露の
嬉し涙を吹き送る。
秋の優しさ、しめやかさ。
空行く雁は瑠璃《るり》色の
高い大気を海として、
櫓を漕ぐやうな声を立て、
何処《どこ》の窓にも睦じい
円居の人の夜話に
黄菊の色の灯が点《とも》る。
晩秋の感傷
秋は暮れ行く。
甘き涙と見し露も
物を刺す霜と変り、
花も、葉も、茎も
萎れて泣かぬは無し。
秋は暮れ行く。
栗は裸にて投げ出《いだ》され、
枯れがれの細き蔓よりも
離散する黒き実あり、
黍幹《きびがら》も悲みて血を流しぬ。
秋は暮れ行く。
今は人の心の水晶宮も
粛として澄み透り、
病みたる愛の女王の傍ら
睿智の獅子は目を開く。
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