風に吹かれてゆらゆらと
黄金《きん》の車に乗りながら、
青い空から降りて来て、
花子の居間をさし覗く。

小《ち》さい花子はお日様を
近く眺める嬉しさに、
眩しいことも打忘れ、
思はず窓に駆け寄れば、
またも不思議や、お日様は
直ぐに一輪、向日葵《ひまはり》の
花に変つて立つて居る。


  秋が来た

涼しい涼しい秋が来た
花子の好きな秋が来た。
空は固より、日の色も
水も空気も吹く風も
すつきりしやんと澄み徹る。

まして静かな夜《よ》となれば
小《ちさ》い花子が面白い
お伽噺を読む側で
月はきんきん黄金《きん》の色
虫はりんりん鈴の声。

小《ちさ》い花子の思ふやう
竹の中から美くしい
赫夜姫《かぐやひめ》をば見附けたも
かうした秋の日であらう。
涼しい涼しい秋が来た。


  光る栗の実

裏の林の秋の昼
静かな中に音がした。
何の音かと小走りに
小《ちさ》い花子が来て見たら
まんまるとした栗の実が
高い枝から落ちて居る。

毬《いが》を離れた栗の実は
今あたらしく世に生れ
空を見るのが嬉しいか
一つ一つに莞爾《にこにこ》と
好《よ》い笑顔をば光らせる。
そして花子も好い笑顔
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