塞がりぬ。
愛も、望みも、微笑みも、
憂きも、涙も、かなしみも
此処にありしと誰れ知らん、
灰のみ白き墓なれば。
大忘却の奥ふかく
合されて行く安楽の
二なきを知れる我れながら、
時には之をかなしみぬ。
花子の目
あれ、あれ、花子の目があいた
真正面をばじつと見た。
泉に咲いた花のよな
まあるい、まるい、花子の目。
見さした夢が恋しいか、
今の世界が嬉しいか。
躍るこころを現はした
まあるい、まるい、花子の目。
桃や桜のさく前で、
真赤な風の吹く中で、
小鳥の歌を聞きながら、
まあるい、まるい、花子の目。
噴水と花子
お池のなかの噴水も
嬉しい、嬉しい事がある。
言ひたい、言ひたい事がある。
お池のなかの噴水は
少女《をとめ》のやうに慎ましく
口をすぼめて、一心に
空を目がけて歌つてる。
小さい花子の心にも
嬉しい、嬉しい事がある。
言ひたい、言ひたい事がある。
小さい花子と噴水と
今日は並んで歌つてる。
ともに優しい、美くしい
長い唱歌を歌つてる。
向日葵と花子
ほんに不思議や、きらきらと
光る円顔、黄金《きん》の髪、
童すがたのお日様が、
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